銀行の開示義務を否定した事例/実務への指針

ginkouhoumu

相続の取扱いは金融法務の重要な一角を占め、多数の判例や先例が集積されているが、金融取引や家族関係の変化等を背景に新たな問題も生じてきている。

このような中、注目すべき裁判例がいくつか示されており、金融取引と関連の深いものも見受けられるため、ここにまとめて採り上げてみたい。

判例2:預金口座の解約後に相続が発生し、口座名義人の共同相続人の1人から単独で取引明細の開示を求められた場合に、銀行の開示義務を否定した事例(東京高判平成23・8・3金融法務事情1935号118頁。上告・上告受理申立て)

3.実務への指針

銀行は、罰金者に対し、罰金契約に基づき、委任事務の受任者として預金口座の取引経緯を開示すべき義務を負い、預金者が死亡した場合には、共同相続人の1人は、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人の預金口座の取引経緯の開示を求める権利を単独で行使できるとされているが(「平成21年判決」という)、相続開始時に預金口座がすでに解約されていた場合、相続人がこの権利を行使できるのかどうかは明確ではない。

本判決は、委任事務終了時の報告を行えば受任者としての義務を果たし、永遠に受任事務の報告義務を負うことはないとして報告義務を否定したが、委任の規定との比較からも、解約済口座まで含めすべて開示に応じるのは事実上困難であることからも、実務に照らして妥当なものといえる。

また、本判決は、銀行が「仮に、信義則上」開示に応じる義務があるとしても、原告の請求は権利の濫用であるとして斥け、銀行が信義則上開示義務を負う場合があることを認める一方、開示請求の目的や開示対象の範囲、開示の可能性と手間や費用を総合して判断し、本件における開示請求は権利の濫用であると判断している。

平成21年判決でも、「開示請求の態様、開示を求める対象ないし範囲等によっては、預金口座の取引経緯の開示請求が権利の濫用に当たり許されない場合があると考えられる」旨の判示がなされており、本判決は、何が「権利の濫用」に当たるかの判断の参考になると思われる。

もっとも、相続人からの請求の場合、相続財産の範囲や所在の調査を目的とする場合が大半であろうから、これだけをもって権利の濫用とは解されないであろう。

なお、本件では、銀行が、弁護士法23条照会に対する回答を拒絶したことにつき損害賠償請求も行われ、本判決は、前記照会に回答する義務は照会者に対して負う義務ではないことを理由に請求を棄却しているが、近年の判例は、総じて調査嘱託や23条照会に対して回答する公的な義務を認めていることに留意する必要がある。

2016年4月26日